ロシア語のアクセント移動:動詞篇(過去組織)

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(記號の説明は名詞篇動詞綜論を參照してください。)

過去組織の語尾

過去形 その他
°л°∅ 不定詞 ти!
°л°о 副動詞過去 в!, в!/ши, /ши
°л а!   能動形動詞過去 /вш, /ш
°л°и 受動形動詞過去 °н, °т, ен\, /ен

 過去形を作る共通の接尾辭は °л です。ただし、р 以外の子音の後では л\ に交替します。(子音幹のところで再度言及します。)

 不定詞の ти! は母音の後ろに來るか、子音の後ろでアクセントを獲得できなかったかの場合、ть! に弱化します。語幹末が к か г であった場合はアクセントにかかはらず к, г と融合して чь! に變はります。

 副動詞過去は過去語幹が母音に終はるとき в!, 子音に終はるとき /ши を使ひます。в! と в!/ши は自由變異で、в! で終はる副動詞過去には任意に /ши を更に加へることができます。アクセント位置には影響しません(в! がアクセントを獲得してゐた場合、假アクセントは /ши ではなく前に行きます)。

 能動形動詞過去の /вш と /ш の使ひ分けは副動詞と同じです。

 受動形動詞過去の語尾の使ひ分けは次の通りです。

受動形動詞過去の語尾
語尾 條件
°н ↓以外の -ать, -ять(正則活用を含む)
°т жать, мять とその派生完了體, распя́ть, нача́ть, -(н)ять
-оть, -уть
第一活用 -ить, -ыть, -еть
р 子音幹(-ереть)
ен\ р 以外の子音幹
第二活用 -ить, -еть で語根 !, ° のもの
/ен 第二活用 -ить, -еть で語根 \ のもの
第一活用 колеба́ть, ушиби́ть の2語

 形動詞にはこの語尾の後ろにさらに形容詞の語尾 /ый, /ого, /ому... が續きます。ただし長語尾 / は直前の形態素が ° の場合語尾 ° に交替します。受動形動詞過去の °т 以外の語尾が持つ н は長語尾が續くとき нн になります。

過去語幹母音

 過去語幹では、現在語幹が子音で終はってゐた多くの動詞で過去語幹母音といふものが後ろに加はります。不定詞の多くが -母音-ть といふ形で終はるのはこれが一因です。

 過去語幹母音は(接頭辭を除き)自分自身より前に母音があるとき屬性 ! となり、ないときは屬性 ° となります。具體例を見ます。

話す 書く 待つ
現在語幹 °говор пис\ °жд
過去語幹 °говори! пис\а! °жд°а
不定詞(基底) °говори!ть! пис\а!ть! °жд°ать!
不定詞(表層) говори́ть писа́ть жда́ть

 говори́ть では и! が、писать では а! が過去語幹に加はってゐます。ждать は過去語幹母音より前に母音がないため、а! ではなく °а が加はります。不定詞は3語とも語末にアクセントがある樣に見えますが、ждать のそれは ть! に直接アクセントを置けないために а に置かれた假アクセントです。この違ひが後で過去形のアクセントに影響してきます。

 なほ、第一正則活用の動詞や、不定詞が -ти, -зть, -сть, -чь で終はる動詞には過去語幹母音はつかず、この話は關係ありません。(後者については話が逆で、なぜか過去語幹母音がつかない動詞が結果として -ти などで終はってゐるのですが。)

第二活用

слы!ша! 聞こえる кур\и! 喫煙する °говори! 話す
基底 表層 基底 表層 基底 表層
過去 слы!ша!°л°∅ слы́шал кур\и!°л°∅ кури́л °говори!°л°∅ говори́л
слы!ша!°л°о слы́шало кур\и!°л°о кури́ло °говори!°л°о говори́ло
слы!ша!°ла! слы́шала кур\и!°ла! кури́ла °говори!°ла! говори́ла
слы!ша!°л°и слы́шали кур\и!°л°и кури́ли °говори!°л°и говори́ли
不定詞 слы!ша!ть! слы́шать кур\и!ть! кури́ть °говори!ть! говори́ть
副過 слы!ша!в! слы́шав(ши) кур\и!в! кури́в(ши) °говори!в! говори́в(ши)
能形過 слы!ша!/вш/ий слы́шавший кур\и!/вш/ий кури́вший °говори!/вш/ий говори́вший
受形過 слы!ш/а°нн°ый слы́шанный кур\/енн/ый ку́ренный °говоренн\/ый говорённый

 全ての第二活用動詞は過去語幹母音を取ります。и! が多いですが、а! や е! のこともあります。第二活用をする語根は спать と гнать の2語を除き母音を含むため、過去語幹母音は ! であり、故に語根 \ や ° であっても過去語幹には必ずアクセント指定があることになり、過去組織は語幹固定アクセントになります。(спать と гнать は次節の ждать と同型の移動アクセントです。)

 アクセント上唯一ルール外となるのは роди́ть 生まれる で、現在語幹は °род, 過去の男性・中性・複數は °роди!°л により規則的ですが、女性が родила́ となります。ここだけ過去語幹母音が °и になってゐる、あるいはここだけ女性語尾が а!! になって上書きルールを發動させてゐる、などの解釋が考へられますが例外すぎて確たる説明はできません。

 受動形動詞過去の語尾は第二活用の場合、過去語幹母音が а! なら °н, е! か и! ならそれを削除したうへで /ен か ен\ を用ゐます。語根が \ なら /ен, 語根が ° なら ен\ です。(語根 ! はどちらと考へても同じ結果になります。)なほ °колеб а! (колеба́ть) 搖する は第一活用で唯一、第二活用的な /ен を取りますが、同樣に過去語幹母音を削除します。°колебл/енн/ый (коле́бленный)

 受動形動詞過去にはアクセントを前に遡らせようとする力があり、第二活用に限らず一般に接辭 а!, о!, у! を(派生接辭であれ過去語幹母音であれ)/а, /о, /у に交替させます。ここでは слы́шать で交替が起きてゐますが、すでに слы!ш がアクセントを持ってゐるため實際の影響はありません。これが держ\а! (держа́ть) では держ\/а°нн/ый (де́ржанный) と、アクセントを語根に遡らせるはたらきをしてゐます。

 一方 говорённый が °говоренн\ となってゐることから、この受動形動詞過去は短語尾で語尾アクセントを取ることがわかります。一般に長語尾が -ённый となってゐるとき、かつそのときに限り、短語尾が語尾アクセントになります。

第一活用(接辭母音幹過去)

с праш/ива 質問する пис\а! 書く °жд°а 待つ
基底 表層 基底 表層 基底 表層
過去 с праш\/ива°л°∅ спра́шивал пис\а!°л°∅ писа́л °жд°а°л°∅ жда́л
с праш\/ива°л°о спра́шивало пис\а!°л°о писа́ло °жд°а°л°о жда́ло
с праш\/ива°ла! спра́шивала пис\а!°ла! писа́ла °жд°а°ла! ждала́
с праш\/ива°л°и спра́шивали пис\а!°л°и писа́ли °жд°а°л°и жда́ли
不定詞 с праш\/ивать! спра́шивать пис\а!ть! писа́ть °жд°ать! жда́ть
副過 с праш\/ивав! спра́шивав(ши) пис\а!в! писа́в(ши) °жд°ав! жда́в(ши)
能形過 с праш\/ива/вш/ий спра́шивавший пис\а!/вш/ий писа́вший °жд°а/вш/ий жда́вший
受形過 пис\/а°нн°ый пи́санный °жд°а°нн°ый жда́нный

 派生接辭を持つ正則活用動詞と、過去語幹母音が ! の動詞とは、途中經過は異なりますがどちらも過去語幹内にアクセント指定を持ってゐるため、語幹固定アクセントになります。/ыва による派生の例として спра́шивать を出してみましたが、不完了體派生動詞なので受動形動詞過去を持ちません。пи́санный では派生接辭が / に交替してゐます。

 現在組織で混合活用の °бежа!, °хоте! は過去組織ではこのグループに入り規則的に活用します。

 子音だけからなる語根 ° と過去語幹母音 ° を持つ動詞では、語幹にアクセント指定がないため、語尾も ° の過去男・中・複では語頭、過去女性のみ語尾の移動アクセントになります。副動詞は假アクセント、能動形動詞は / の指定を受けて語幹アクセント、受動形動詞は長語尾が ° に交替するため語頭ルールでやはり語幹アクセントです。


 -овать, -нуть の例も見ておきませう。

°рисов\а! 描く кри!к°ну! 叫ぶ
基底 表層 基底 表層
過去 °рисов\а!°л°∅ рисова́л кри!к°ну!°л°∅ кри́кнул
°рисов\а!°л°о рисова́ло кри!к°ну!°л°о кри́кнуло
°рисов\а!°ла! рисова́ла кри!к°ну!°ла! кри́кнула
°рисов\а!°л°и рисова́ли кри!к°ну!°л°и кри́кнули
不定詞 °рисов\а!ть! рисова́ть кри!к°ну!ть! кри́кнуть
副過 °рисов\а!в! рисова́в(ши) кри!к°ну!в! кри́кнув(ши)
能形過 °рисов\а!/вш/ий рисова́вший кри!к°ну!/вш/ий кри́кнувший
受形過 °рисов\/а°нн°ый рисо́ванный кри!к°н/у°т°ый кри́кнутый

 -овать 動詞の現在語幹は -у! でしたが、у! が ов\ に交替して更に過去語幹母音 а! がついてゐます。-нуть 動詞では現在語幹と同じ °н の後に過去語幹母音 у! がついてゐます。

 いずれにしても全て語幹固定アクセントです。(細かくいふと語幹の中でも語根 ! のものは語根に、語根 \ か ° なら不定詞最終音節の -вать, -нуть にアクセントが來ます。)

 なほ、-нуть 動詞の一部には過去形で °ну! を拔かして子音幹として活用するものがあります(後述)。

 受動形動詞過去では兩動詞とも過去語幹母音が / に交替し、рисо́ванный ではアクセントを遡らせてゐます。

 -нуть 動詞は受動形動詞過去に °т を用ゐます。

第一活用(語根母音幹過去)

пе! 歌ふ °пи 飲む
基底 表層 基底 表層
過去 пе!°л°∅ пе́л °пи°л°∅ пи́л
пе!°л°о пе́ло °пи°л°о пи́ло
пе!°ла! пе́ла °пи°ла! пила́
пе!°л°и пе́ли °пи°л°и пи́ли
不定詞 пе!ть! пе́ть °пить! пи́ть
副過 пе!в! пе́в(ши) °пив! пи́в(ши)
能形過 пе!/вш/ий пе́вший °пи/вш/ий пи́вший
受形過 пе!°т°ый пе́тый °пи°т°ый пи́тый

 特に變はった點はありません。語根が ° であれば女性のみ語尾、その他は語幹の移動アクセントになります。

 第一活用の母音幹で -ать, -ять 以外(-еть, -ить, -ыть, -уть, -оть)に終はるものは受動形動詞過去に °т を用ゐます。

第一活用(子音幹過去)

крад! 盜む мог\ できる °нес 帶びる
基底 表層 基底 表層 基底 表層
過去 крад!л\°∅ кра́л мог\л\°∅ мо́г °несл\°∅ нёс
крад!л\°о кра́ло мог\л\°о могло́ °несл\°о несло́
крад!л\а! кра́ла мог\л\а! могла́ °несл\а! несла́
крад!л\°и кра́ли мог\л\°и могли́ °несл\°и несли́
不定詞 крад!ть! кра́сть мо\чь! мо́чь °нести! нести́
副過 крад!в! кра́в(ши) мог\/ши мо́гши °нес/ши нёсши
能形過 крад!/вш/ий кра́вший мог\/ший мо́гший °нес/ш/ий нёсший
受形過 крад!ен\/ый кра́денный °несен\/ый несённый

 冒頭で述べた通り、р 以外の子音の後ろで過去の °л は л\ に交替します。このため語幹 \ と ° の動詞は過去形で語末固定アクセントを持ちます。過去男性形は假アクセントです。

 л\ の前で語幹の т, д は脱落し、逆にその他の子音の後で語末のとき(=過去男性形)л\ は脱落します。語幹 ° の過去男性形で語幹の е はアクセントを受けて ё になります(нёс)。しかし語幹 ! では ле́з よぢ登った, се́л 座った の樣に е のままです。

 красть の語幹は子音終はりなので副動詞過去・能動形動詞過去は *крадши, *крадший になりさうなものですが、母音で終はってゐるかの樣に в!, /вш の語尾をとってゐます。過去形で д が脱落するのにつられたのでせうか。語幹 ! 仲間の се!д (сесть) 座る, па!д (пасть) 落ちる, кла!д (класть) 置く, пря!д (прясть) 紡ぐ でも同樣のことが起きます。(なほこの5語のうち се!д 以外の4語は現在語幹 ° で過去語幹 ! といふ交替を起こしてゐます。後述。)しかし д で終はってゐても °вед (вести́) など語根 ° のものは ве́дши, ве́дший と規則通りです。

 子音幹の受動形動詞過去は р 以外の子音の後ろで ен\ を用ゐます。р の場合は °т です。子音幹で唯一語幹 \ の мочь とその派生語で受動形動詞過去を持つものはない樣です。


ги!б(°ну!) 犠牲になる ме!рз(°ну!) 凍える
基底 表層 基底 表層
過去男 ги!б°ну!л\°∅ ги́бнул ме!рз°ну!л\°∅ мёрзнул
ги!бл\°∅ ги́б ме!рзл\°∅ мёрз
ги!бл\°о ги́бло ме!рзл\°о мёрзло
ги!бл\а! ги́бла ме!рзл\а! мёрзла
ги!бл\°и ги́бли ме!рзл\°и мёрзли
不定詞 ги!б°ну!ть! ги́бнуть ме!рз°ну!ть! мёрзнуть
副過 ги!б°ну!в! ги́бнув(ши) ме!рз/ши мёрзши
ме!рз°ну!в! мёрзнув(ши)
能形過 ги!б°ну!/вш/ий ги́бнувший ме!рз/ш/ий мёрзший
ме!рз°ну!/вш/ий мёрзнувший

 -нуть 動詞の一部には過去語幹で °ну! を拔いて子音幹の樣な活用をするものがあります。一般に -нуть 動詞の多くは一回體の完了體動詞ですが、子音幹の樣に振る舞ふものは原則不完了體の自動詞で(よって受動形動詞はありません)、全て語根 ! です。不定詞は °ну! のあるものを使ひますし、過去男性形、副動詞過去、能動形動詞過去では °ну! があるものとないもので搖れのある動詞もあります。上の表では поги́бнуть の副動詞過去、能動形動詞過去は1種類だけですが мёрзнуть のそれは2種類づつあることを示してゐます。

 これらの語根に接頭辭がついた派生完了體では搖れはなく、不定詞以外の過去組織全部で °ну! を拔きます。

接頭辭移動アクセント

°за°ня 占める °у°мер 死ぬ °за°пер 施錠する
基底 表層 基底 表層 基底 表層
過去 °за°ня°л°∅ за́нял °у°мер°л°∅ у́мер °за°пер°л°∅ за́пер
°за°ня°л°о за́няло °у°мер°л°о у́мерло °за°пер°л°о за́перло
°за°ня°ла! заняла́ °у°мер°ла! умерла́ °за°пер°ла! заперла́
°за°ня°л°и за́няли °у°мер°л°и у́мерли °за°пер°л°и за́перли
不定詞 °за°нять! заня́ть °у°мере!!ть! умере́ть °за°пере!!ть! запере́ть
副過 °за°няв! заня́в(ши) °у°мер/ши уме́рши °за°пер°ши за́перши
°у°мере!!в! умере́в запере!!в! запере́в
能形過 °за°ня/вш/ий заня́вший °у°мер/ший уме́рший °за°пер°ш°ий за́перший
受形過 °за°ня°т°ый за́нятый °за°пер°т°ый за́пертый

 запере́ть と отпере́ть 解錠する の2語でのみ、副動詞過去・能動形動詞過去の語尾は /ши, /ш から °ши, °ш に交替します。

 接頭辭は基本的にアクセントに干與しません。ところが語根が屬性 ° で派生接辭・過去語幹母音を持たず、過去形で移動アクセントを持つ動詞の一部では、接頭辭が屬性 ° を持つ形態素となり、語頭ルールが適用される語形でアクセントを獲得します。同じ語根から派生する動詞でも接頭辭にアクセントが來るかどうかが違ったり、接頭辭アクセントと語根アクセントで搖れがあったりして、個別に覺えるしかありません。(上表に擧げた3語は接頭辭アクセントで安定してゐる例です。)

 對象語が少ないのがせめてもの救ひです。語根 ° の動詞は澤山ありますが р 以外の子音の後では過去 °л が л\ に變はるため語頭ルールが適用される餘地はありません。語根 ° が母音または р で終はるものは以下の14語です。

°ви 編む °жи 生きる °ча (нача́ть) 始める °бы (быть) °мер (умере́ть) 死ぬ
°гни 朽ちる °ли 流れる °(н)я (взять 取る, °да 與へる °пер (запере́ть) 施錠する
°плы 泳ぐ °пи 飲む  обня́ть 抱きしめる)  
°слы 稱する °кля (клясть) 呪ふ  

 このうち °ви, °гни, °плы, °слы は現代語では接頭辭アクセントの語を持ちません。といふわけで注意すべき語根は10語です。

 この10語とその派生語の中には заня́ть や умере́ть の樣に接頭辭アクセントで安定してゐるものもあれば搖れてゐるものもあり、それどころか забы! (забы́ть) 忘れる の樣に元の быть を無視して語幹固定アクセントになってしまったものもあります。多くは接頭辭アクセントと語根アクセントの間で搖れてゐる樣です。つまりどちらでも可といふことで、どちらが聞こえても對應できる樣にしておくのがよいでせう。

 これらは全て受動形動詞過去を °т で作るため、受動形動詞過去も接頭辭アクセントを取る可能性があります。

 2つ以上接頭辭があるとき、形態素 ° として振る舞う接頭辭は最後のもののみです。そこより前にアクセントが遡ることはありません。

 ちなみに не́ был の樣に быть の過去否定形で не にアクセントがあるのは、かつて не が接頭辭と同じ樣に振る舞ってゐた名殘です。

例外

① °да 與へる、вз°я 取る の2語では、過去形は移動アクセントですが、女性形だけでなく中性形も語尾アクセントを取ることがあります。


②受動形動詞過去には個別の例外が多くあります。


③再歸動詞の接尾辭が過去形において ся!!, сь!! とアクセントを取ることがあります。主なものは次の5語です。

始まる 取り組む 取り掛かる 起き上がる 生まれる
на °ча за °ня при °ня под °ня °роди!
нача́ться заня́ться приня́ться подня́ться роди́ться
нача́лся́ заня́лся́ приня́лся́ подня́лся́ роди́лся́
начало́сь заняло́сь приняло́сь подня́ло́сь роди́ло́сь
начала́сь заняла́сь приняла́сь подняла́сь роди́ла́сь
начали́сь заняли́сь приняли́сь подня́ли́сь роди́ли́сь

 2ヶ所に力點が入ってゐるところはアクセントに搖れがあることを示してゐます。男性形では5語ともで搖れがあり、-ся にアクセントを置く形は廢れつつあります。しかし中性・複數では語幹でなく語尾にアクセントを置くのが正式として扱はれてゐる樣です。родиться には完了體と不完了體があり、かつては完了體で語尾固定アクセント、不完了體で語幹固定アクセントと區別してゐたさうですが現在では不完了體のアクセントが完了體に侵蝕して混亂してゐます。

不定詞と過去語幹の關係

 多くの動詞で過去語幹は不定詞から -ть を取って得られ、なほかつその多くは過去語幹母音のおかげで語幹固定アクセントです。このため不定詞から過去語幹を、過去語幹から活用形を導き出すことは現在組織のときに比べて格段に容易です。

 しかしさうでない動詞もあります。以下では不定詞と過去語幹が異なるもの、および語幹固定アクセントでないもののパターンを見ていきます。

(1) -АТЬ で終はるが移動アクセントを取る例外

不定詞 現在 過去  
врать °вр °вр °а 噓をつく
ждать °жд °жд °а 待つ
жрать °жр °жр °а むさぼる
лгать °лг °лг °а 噓をつく
рвать °рв °рв °а 裂く
ткать °тк °тк °а 織る
спать °сп °сп °а 眠る
брать °бер °бр °а 取る
драть °дер °др °а 破る
звать °зов °зв °а 呼ぶ
гнать °гон °гн °а 追ふ
дать °дад °да 與へる
нача́ть °на °чн °на °ча 始める

 врать から гнать までの11語根は語根に母音がないため過去語幹母音が °а と語幹にアクセントを固定してくれず、移動アクセントになります。

 дать と начать は過去語幹母音がつくのではなく語根が а で終はるため -ать の外見を得てゐるものです。2語ともに接頭辭アクセントを取りうる語根です。

 なほ現在組織では спать と гнать が第二活用、дать が不規則活用です。

(1)′ 例外の例外

不定詞 現在 過去  
жать °жм °ж а! 押す
жать °жн °ж а! 刈り入れる
слать °шль °сл а! 送る
мча́ться °мч °мч а! 驅ける
ржать °рж °рж а! いななく

 この5語は前に母音がないにもかかはらず、過去語幹母音が例外パターンに沿った °а ではなく а! を取る「例外の例外で規則通り」の動詞です。つまりこの一覽に載せるまでもなく語幹固定アクセントですが、かういふものもあるといふことで。мчаться は現在組織で第二活用です。

(2) -ИТЬ, -ЫТЬ で移動アクセントとなるもの

不定詞 現在 過去  
вить °вь °ви 編む
лить °ль °ли 流れる
пить °пь °пи 飲む
гнить °гни °гни 朽ちる
жить °жив °жи 生きる
плыть °плыв °плы 泳ぐ
слыть °слыв °слы として知られる

 жить, плыть, слыть の過去語幹は現在語幹と同じで в で終はってをり、子音の前で в が脱落する(つまり過去組織全て)と考へることもできます。лить, пить, жить は接頭辭移動アクセントになりうる動詞です。

(3) -ЕРЕТЬ

不定詞 現在 過去  
тере́ть тр! те!р こする
простере́ть про стр! про сте!р 差し出す
( мере́ть мр! ме!р 死ぬ )
умере́ть °у °мр °у °мер 死ぬ
( пере́ть пр! пе!р 壓する )
запере́ть °за °пр °за °пер 施錠する

 この4語根は本質的には р で終はる子音語根ですが、不定詞のみ е!! が插入されてをり過去組織の殘りと異なります。語幹 ! の е にはアクセントが固定されて過去組織全てで ё となります。мере́ть, пере́ть そのものは語幹 ! ですが派生動詞は語幹 °(接頭辭移動アクセント)で、もっぱら派生動詞の方しか使はないので語根そのものを ° と覺えても問題ないでせう。

(4) -ЗТЬ, -СТЬ, -ТИ, -ЧЬ

不定詞 現在 過去  
лезть ле!з ле!з よぢ登る
честь чь!т чь!т 讀む
везти́ °вез °вез 運ぶ
нести́ °нес °нес 帶びる
течь °тек °тек 流れる
мочь мог\ мог\ できる
сесть ся!д се!д 座る
клясть °клян °кля 呪ふ
идти́ °ид °шьд 步いて行く

 -母音-ть に終はらない動詞の過去語幹は基本的に現在語幹と同じです。現在組織篇で全ての該當語を列擧したのでここでは詳述しません。例外は сесть, клясть, идти と、この後すぐやる -стичь、後述の屬性が交替するものです。

 これらの子音幹の多くも語幹 ° ですが、ここまでと異なり р 以外の子音に過去の °л が續くときは л\ に交替するルールのため過去形が語尾固定アクセントになります。

 клясть の本來の語根は現在語幹の通り °клян ですが、過去語幹は н が脱落するため母音に終はり、移動アクセントを取ります。派生語は接頭辭移動アクセントです。不定詞の -сть といふ形は他の -сть に終はる不定詞からの類推で插入されたもので、不定詞以外の過去組織に с に對應する音は一切現れません。

 °шьд は現在語幹・不定詞と全く異なる補充形による語幹です。一見なんでかうなるのか判らないかもしれませんが語尾をルール通りあてはめて出沒母音(ь)を出沒させたり д を脱落させたりしてみてください。

(5) -нуть で °ну! が脱落するもの

不定詞 現在 過去  
вя́нуть вя! °н вя! 萎れる
привы́кнуть при вы!к °н при вы!к 慣れる
воскре́снуть вос кре!с °н вос кре!с 復活する
замо́лкнуть за мо!лк °н за мо!лк 口をつぐむ
дости́чь, дости́гнуть до сти!г °н до сти!г 達する
стыть, сты́нуть сты! °н сты! 冷える

 過去語幹と不定詞が異なり、(4) と同じ樣に子音幹として過去組織の活用をします。全て語幹 ! の語幹固定アクセントです。接頭辭のつかないもの、および -стичь の派生動詞では、過去男性形・副動詞過去・能動形動詞過去で -ну- がある形とない形の搖れがあるものがあります。 -стичь, стыть およびその派生動詞では不定詞にも同樣の搖れがあります。

(6) 屬性が交替するもの

不定詞 現在 過去  
грызть °грыз гры!з 嚙みつく
класть °клад кла!д 寢かせる
красть °крад кра!д 盜む
пасть °пад па!д 落ちる
прясть °пряд пря!д 紡ぐ
есть °ед е!д 食べる
стричь °стриг стри!г 刈る
петь °по пе! 歌ふ
лечь ля!г °лег 横になる
быть бу!д °бы ある
( забы́ть бу!д бы! 忘れる )
хоте́ть °хот, хот °хот е! 欲する
колеба́ть коле!б °колеб а! 搖する
ушиби́ть у °шиб у ши!б 負傷させる
взять воз °ьм вз °я 取る
заня́ть °за °йм °за °ня 占める
приня́ть °пр им\ °при °ня 受け入れる
отня́ть °от ним\ °от °ня 奪ふ

 語幹の屬性が現在語幹と過去語幹で違ってしまふものがあります。最初の7語根では音は同じで屬性のみが交替し、この交替のために過去組織で語幹固定アクセント、грыть から есть までは不定詞も -зти, -сти ではなく -зть, -сть になります。петь, лечь, быть では母音も交替します。быть の派生動詞の多くは接頭辭移動アクセントと單なる移動アクセントで搖れてゐますが、забы́ть の樣に語幹固定アクセントに變はったものもあります。есть は不規則活用、хоте́ть は混合活用です。

 最後の4行は接頭辭と -(н)ять からなる動詞です。いずれも語幹 ° の移動アクセント、多くは接頭辭移動アクセントとの搖れを持ちます。заня́ть, поня́ть, приня́ть などは接頭辭移動アクセントの形のみを持ちます。

語尾固定/移動アクセントの見分け方

過去形

語尾固定アクセント (31)  
°шьд (идти́) 步いて行く °скреб (скрести́) ひっかく
°вез (везти́) 乘物で運ぶ °влек (влечь)
°полз (ползти́) 這ふ = °волок (воло́чь) ひきずる
°нес (нести́) 持って運ぶ °пек (печь) 燒く
°пас (пасти́) 放牧する °рек (предре́чь) 預言する
°тряс (трясти́) 搖する °сек (сечь) 切る
°мет (мести́) 掃く °тек (течь) 流れる
°обрет (обрести́) 見出す °толок (толо́чь) くだく
°плест (плести́) 編む °берег (бере́чь) 大切にする
°свет (рассвести́) 夜が明ける °небрег (пренебре́чь) 輕んずる
°рост (расти́) 育つ °жьг (жечь) 燒く
°цвет (цвести́) 咲く °пряг (запря́чь) 馬具を繋ぐ
°блюд (блюсти́) 守る °стерег (стере́чь) 見張る
°бред (брести́) 骨折って步く °лег (лечь) 横たはる
°вед (вести́) 率ゐる мог\ (мочь) できる
°греб (грести́) 漕ぐ  
移動アクセント (25) うち接頭辭移動可能 (10)
°вр °а (врать) 噓をつく °да (дать) 與へる
°жд °а (ждать) 待つ °ча (начать) 始める
°жр °а (жрать) むさぼる °ли (лить) 流れる
°лг °а (лгать) 噓をつく °пи (пить) 飲む
°рв °а (рвать) 裂く °жи (жить) 生きる
°тк °а (ткать) 織る °мер (умере́ть) 死ぬ
°сп °а (спать) 眠る °пер (запере́ть) 施錠する
°бр °а (брать) 取る °кля (клясть) 呪ふ
°др °а (драть) 破る °бы (быть)
°зв °а (звать) 呼ぶ °(н)я
°гн °а (гнать) 追ふ
°ви (вить) 編む
°гни (гнить) 朽ちる
°плы (плыть) 泳ぐ
°слы (слыть) として知られる  

受動形動詞過去短語尾